始めることと、つづけること。どちらが難しいかといえば、後者かもしれません。健康に関わる良い習慣は、裏返しとして「生活習慣病」という言葉があるように、自分の意志や染みついたライフスタイルに阻まれることが少なくないでしょう。
だからこそ、「がんばろう」という精神論ではなく、科学の観点から「つづける力」について考えてみたいと思います。
「今すぐ対処しなくていいこと」への対処が肝心
マインドフルネスのプログラムについて企業からの問い合わせが急増したのは、2016年にNHKスペシャルで『キラー・ストレス』という特集が反響を呼んだ後でした。
タイトルだけ見ても怖いですよね。この番組ではジワジワと心身をむしばんでいくストレスの影響とともに、対応策としてのマインドフルネスの効果性を海外取材も含め取り上げていました。
回避行動
人は強い不快を感じたら回避行動を起こします。
本能に根差した生理的欲求や安全欲求を満たさずにはいられないからです。それは生存のために必要な行動ですが、はたして健康のためにそれだけでよいのか、という課題が浮上します。
中国最古の医学書といわれる「黄帝内経」という書物に、「未病」という状態について記述があります。これは「病気に向かう状態」と定義されており、江戸時代に貝原益軒が著した「養生訓」以降、日本でも広く知られるようになりました。
またこの概念は西洋医学にもあり、今日の予防医学につながる重要な概念といえるでしょう。
本当に怖いストレスの影響
仕事で感じるストレスは、通常であれば、あっという間に心身を蝕むものではありません。
程度の差はあれ人にはレジリエンス(復元力)が備わっているので、今日仕事で感じたストレスは、一晩寝ればそれなりに解消され、またストレスを感じては解消され……。
そんなことを繰り返しながら、徐々に復元力が弱まってきます。
放置するほど対処が難しくなってくるので、日頃のセルフケアが重要。
これが「未病」を無視してはならないポイントです。
睡眠がライフスタイルのデフォルトを変える
ヨガやマインドフルネスは、健全な状態の人が習慣にすることの価値はもちろん、未病対策としても大きな意味があります。
しかし頭ではそれが大切だと理解しても、なかなか継続できない人が多いのも事実です。前述したような本能に根差した欲求が立ち上がってこないからです。
危機が迫るような状況ではないなか、頭で「やりたい」と思っていることをつづけるためにできること。私が真っ先に挙げたいのは(意外に思われるかもしれませんが)、
ちゃんと眠ること、です。
マインドフルネスが継続できない、どうすればいい?とビジネスパーソンから質問された際、「毎日、ちゃんと眠れていますか」と聞くと、睡眠時間の少ない人が多いのです。
睡眠と依存克服の関係
たいへん有名な「意志力の科学」に関する研究によれば、睡眠が質量ともに医学的に適正な状態になると、被験者の「依存克服」に関する成功率が上がったのです。(『スタンフォードの自分を変える教室』が日本でもベストセラーになった、ケリー・マクゴニガル氏の研究)。
ちなみに同氏の研究では、最低7時間の(質を伴う)睡眠が必要とされています。
ここでいう依存とは、つい夜にジャンクフードやスナック菓子を食べてしまう、目的もなくテレビをつけ、スマホでSNSに時間を浪費してしまうなど、多くの人が経験しているであろう日常のロスタイムです。
同氏の研究では呼吸瞑想や軽い運動も同様の効果がある(瞑想が睡眠の質量を改善するとも)と指摘していますが、本稿ではそもそも、そうした望ましい行為を習慣化することの壁を取り上げているので、“まずは睡眠”ということです。
負のスパイラルに陥らない
いつも疲れていて大事なことに集中できない人が、健康的で仕事もできる“意識高い系”の誰かをSNSで見つけ、これではいけないと寝る間も惜しんで1日30分の瞑想をつづけようと決める。
これはほとんどブラックジョークの世界で、成功確率は極めて低いと思います。
まずは疲れている自分を認め、他人と比べることをやめて自分に思いやりを向けてあげましょう。
少しくらい上手くいかないことがあっても、ゆっくりお風呂に入って、ぐっすり寝ることにOKを出す。
そうすれば次第に身体レベルで変化が起き、ダラダラSNSで時間を浪費したい自分から、瞑想やヨガ(その他、未病から健康、健康の維持のためにしたいと思っていること) をしている自分が、いつの間にかデフォルトになってきます。
コラム著者:吉田 典生 よしだてんせい
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●MBCC(マインドフルネス・ベースド・コーチ・キャンプ)ファウンダー
●MiLI(一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート)理事
●MCC(国際コーチ連盟マスター認定コーチ)
関西大学社会学部卒業後、ビジネス誌や経営専門誌の編集記者を経て2000年に(有)ドリームコーチ・ドットコム設立。以降、経営層などビジネスリーダーのコーチ、組織コミュニケーションの再構築・改善を通して変容を支援するコンサルティングに従事。マインド・ビジョン・ロール・アクションという4つの最適化をデザインし、コーチングを十分に機能させる構造的なアプローチを展開。著書に10万部超のベストセラー『なぜ、「できる人」は「できる人」を育てられないのか?』、出版当時Yahoo!新語時点に書名が掲載された『部下力~上司を動かす技術~』他多数。プロファイルズ社戦略ビジネスパートナー、BBT大学院オープンカレッジ講師、6seconds認定EQプラクティショナー、SEI EQアセッサー。
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