ヨガやマインドフルネスといった取り組みは、業務に直結するテクニカルスキルを重んじる企業文化のなかでは、これまで学びのアイテムになりにくいものでした。
しかし今なぜそれが企業研修としても注目されているのか。
そこには、従業員一人ひとりのWell-being(ウェルビーイング=身体的、精神的、社会的に健全な状態にあること)の重要性が認知されてきたことに加え、個々の関心をつなぐことで見えてくる共通関心が、組織自体の健全性に深くかかわってくることも見逃せません。
仕事の知識や技能を覚えて生産性を上げる…という、企業の旧来的な枠を超えたコロナ禍以降の学びについて、組織開発の観点から考えてみたいと思います。
前半「共通関心にもとづく非公式のつながりが、組織の免疫力を強化する_前編」はこちら
共通の「やりたいこと」を実践できる場
エンプロイー・エクスペリエンス
さいきん日本企業でも、Employee Experience(エンプロイー・エクスペリエンス=従業員の経験の質)ということに注目が集まっています。
現在の働きがいはもとより、健康状態、将来のキャリア展望など、いかに統合的な意味における経験の質を高めるか。それがまさにエンゲージメント(従業員と組織の一体感)を左右する、という理解は、文字通りエンゲージメントへの取り組みと重なり合うものです。
職場の人間関係
かつて日本企業は、“家族的経営”という価値観において、組織図に現れないチームが機能するような仕掛けがふんだんにありました。
春一括の新卒採用という独特の仕組みがもたらす、同期間の部門を超えたつながり。慰安旅行や社内運動会。定期的なジョブローテーションによる“人間関係”の蓄積。
働き方が変わり、雇用形態が多様化し、異業種連携や吸収合併などがビジネスの日常となった現在。コロナ禍前には“社内運動会の復活”などがニュースになっているのを何度か目にしましたが、ニュースは数少ない事例だからこそ取り上げられます。
チームを強化するために、昔のやり方に戻そう、というわけにはいかないでしょう。しかし組織図に示されない人のつながりは、各国あるいは企業ごとの文化、業種、規模などにかかわらず、普遍的な資源のようです。
そこで私たちは、慰安旅行や社内運動会が担保していた有機的な人のつながりを、いかに現在の経営環境に沿ったかたちで維持、または復活させていくかを考えねばなりません。みんなが多忙で、テレワークが増え、勤務時間も異なる環境において、何が有効な施策となるでしょう。
キーワードは共通関心
ぜひお勧めしたいのが、共通関心にもとづく場づくりです。
これは組織の経営、マネジメントに携わる側だけではなく、草の根的に職場で声を上げていくこともできるはず。実際に私自身や弊社も、そうした草の根活動をボトムアップで広げていくことを支援しています。
そもそも人のつながりがスムーズに生まれてくる本質のところには関心があります。
なぜなら関心が価値観を生み、価値観は共通言語をもって交流する基盤になるからです。
これを関心相関性といいます。(注:《関心相関性=存在や意味や価値は絶対的なものではなく、主体:観察者や受け手の身体、欲望、関心といったものと相関する・・・という構造構成主義の中核原理》
弊社(MiLI)の7年半の活動の具体例を紐解くと、「マインドフルネス」をフォーマルな組織図に沿って人を集め、展開することは容易ではありませんでした。
しかし共通関心をもつ人々が気軽に集える場を設定できると、学びと実践の自然増殖が起きてくるのです。
この指とまれ
職場のヨガ実践も同じことがいえると思います。一定数、関心を持つ人がいるはずだという仮説を立てたら、こんなことをやります~、この指とまれ~という旗を振ることです。
共通関心は組織図に示されないチーム形成の源泉になりますが、おそらく期待しているだけでは何も始まらないでしょう。人々の新たな行動や変容、発達の経緯を探っていくと、何らかの理由で「やってみよう」という契機をもったとき、その人に潜在している関心が表に出てきます。これを契機関心相関性といいます。
だから契機として、誰かが旗を振る。
そこからすべては始まります。
インフォーマルな活動
インフォーマルな活動を通したチーム形成は、公式的な体制を捨てるわけにはいかない企業組織の硬直化を防ぐ“免疫強化”の役割も果たすと思います。
その“契機”を、
誰もが気軽に楽しめて健康に寄与する、
そして効果を実感しやすいヨガのプログラムから始めてはどうでしょう。
コラム著者:吉田 典生 よしだてんせい
https://tenseiyoshidacom.wpcomstaging.com/
●MBCC(マインドフルネス・ベースド・コーチ・キャンプ)ファウンダー
●MiLI(一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート)理事
●MCC(国際コーチ連盟マスター認定コーチ)
関西大学社会学部卒業後、ビジネス誌や経営専門誌の編集記者を経て2000年に(有)ドリームコーチ・ドットコム設立。以降、経営層などビジネスリーダーのコーチ、組織コミュニケーションの再構築・改善を通して変容を支援するコンサルティングに従事。マインド・ビジョン・ロール・アクションという4つの最適化をデザインし、コーチングを十分に機能させる構造的なアプローチを展開。著書に10万部超のベストセラー『なぜ、「できる人」は「できる人」を育てられないのか?』、出版当時Yahoo!新語時点に書名が掲載された『部下力~上司を動かす技術~』他多数。プロファイルズ社戦略ビジネスパートナー、BBT大学院オープンカレッジ講師、6seconds認定EQプラクティショナー、SEI EQアセッサー。
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